2026年5月のみことば

しかし、わたしは言っておく

 「あなたがたも聞いているとおり、『隣人を愛し、敵を憎め』と命じられている。しかし、わたしは言っておく。敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。」
                    (マタイによる福音書5章43-44節)

 アメリカでトランプ大統領が就任する前後から、いわゆるキリスト教の「福音派」と呼ばれる人々が注目されています。同名の書籍がベストセラーとなるなど、大きな話題となっています。この背景には北アメリカ特有の文化もあると言われています。そこでマタイによる福音書を通して、文化を刷新するイエス・キリストの福音について確認しましょう。

① 隣人と敵
 現在、アメリカだけでなく、日本を含む多くの国々で敵か味方かという二項対立による分断が加速していると言われています。そうした中で、イエスは「隣人を愛し、敵を憎め」という教えを知っているよねと、語ります。これはイエスが自分についてきたいと願う人々、つまり弟子に呼びかけたものです。
 聖書には「隣人を愛しなさい」(旧約聖書、レビ記19章18節)とあります。一方で「敵を憎め」という言葉は見当たりません。そこでこれは、今から約2000年前のイエスが生活していたユダヤ社会で教えられていた常識、文化の一部であろうと思われます。

 そこには、歴史的な背景もあるでしょう。当時、ユダヤは古代ローマ帝国の支配下にありました。重税を課され、時には迫害されました。そのような中で、敵味方をはっきりさせることは、人々にとって分かりやすかったと言えます。またそれは、今日の社会にも言えるでしょう。私たちの周りでも、他民族や自分よりも立場が弱いと決めつけて他の人を蔑視することで自分の存在価値を確認しようとするあり方(ヘイト)が見られます。なぜなら社会を形作っているのは、今も2000年前も同じ人間だからです。

 それでイエスは、何を語ったのでしょうか。

② 敵を愛する
 イエスの新しさは、聖書の価値観、その基本に立ち返り、さらに理解を深めることにあります。イエスは続いて「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」と語りました。旧約聖書では「隣人を愛しないさい」の前に「復讐してはならない。民の人々に恨みを抱いてはならない」と記されています。そこにあるのは「……してはならない」という否定的な勧告です。それに対してイエスは「敵を愛し……祈りなさい」と肯定的に勧めています。そこでは、隣人を愛するという聖書本来の意図を踏まえて、より積極的な生き方を語っています。

 今のアメリカで、白人男性の疎外感や、伝統文化が脅かされていると危機感を抱く人々の多くが福音派と言われます。福音派はかつて「原理主義」(ファンダメンタリスト)などと呼ばれました。そして過激なテロを起こした危ない人々と同一視され、その印象が広がりました。しかし「ファンダメンタル」は、もともと基本という意味です。そして福音派は、聖書をキリスト教の基盤として大切にする立場です。

 一方で、聖書には様々な奇跡など、信じられないことが書かれています。そこで非科学的、前近代的と批判されてきました。そこには「近代の学問的聖書批判」と「世俗主義」という二つの流れがあります。前者に概ね肯定的なキリスト教が「主流派」です。後者には、聖書に無関心な「ノンズ(NONS)」と呼ばれる人々もいます。

 それならば、聖書は今も意味があるのでしょうか。

③ イエスの言葉
 最後に、イエスの言葉は時代を超えて響いています。イエスは「しかし、わたしは言っておく」と語ります。聖書は明確に、これがイエスの言葉であると伝えています。先ほど紹介した「近代の学問的聖書批判」では、聖書にイエス自身の言葉は記されていないとの立場もあります。そしてイエスの奇跡に懐疑的で、ただの偉い人か人々に寄り添う優しいヒューマニストであったとしか言えないのです。

 イエスは、私たちの生き方を変えるキリスト(救い主)です。しかし、世俗主義などのために、人々はイエスを受け入れようとしません。その現実を「罪」と言います。イエス・キリストの十字架は、そのような私たちの罪を赦します。福音派ではこれを「ボーンアゲイン(born-again、新生)」と言います。さらにクリスチャンといえども、間違いを犯します。だからこそ罪を赦された私たちは、日々新たに造りかえられます。これこそが「福音(Gospel)」です。

 日本にもアメリカと同じ福音派がいます。聖書を大切にする立場は変わりません。一方、文化ではなく聖書に根ざすものですから、日本の福音派に「MAGA(Meke America Greate Again)」はいないでしょう。実際、私自身も、主流派の一員ですが、福音派の立場です。またアメリカの福音派は多様です。今のあり方に批判的な人々もいると、『福音派』の著者も様々な対談の場で繰り返し語っています。

 こうして大切なことは、今の時代に「しかし、わたしは言っておく」というイエスの言葉に耳を傾けることです。イエスは約2000年前に、聖書を通して当時の文化や価値観を吟味し、新しい生き方を指し示しました。今もイエスはキリストとして私たちを新たにすると共に、「しかし」と福音によって文化を刷新します。あなたもこの「福音―喜びの知らせ」を語ったイエス・キリストに出会いませんか。

 どうぞ教会の礼拝にお出かけください。

東京聖書学校吉川教会 原田彰久牧師
(はらだ あきひさ)
 




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