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I君のこと             島隆三

              (西川口教会週報短文より)

特伝にI君が出席した。あの朝、初めて教会の前で会ったが、寒くて震えているようであった。前夜は川口駅のそばで寝たとのことで、彼はホームレスであった。昼食後に聞いた彼の話では、彼は三歳で母親と死別し、父は分からず、埼玉県日高市の児童養護施設で育てられ、中学を卒業して東京に就職し、今日まで20年間いろいろ苦労してきた。その中で楽しかったのは清里の牧場で観光用のポニーの世話をしたことだった。今、職を求めているが、北海道の標茶(根釧原野)にある山ノ内牧場求人広告を出しているので行って見たいという。しかし、履歴書のための写真を撮らねばならず、それを郵送する金もないという。もちろん、旅費もあるはずがない。どうするつもりかと尋ねたら、働いて旅費を稼いで行きたいと言う。それも容易ではないが、彼のために一言祈ってから今晩泊まる位のものを上げて励ました。彼は午後のチャペルコンサートにも出て、岸先生からCDを1枚プレゼントされて明るい顔で帰っていった。

火曜日の午前、彼は暗い顔でやってきた。仕事はないし金は使いきってしまったのだろう。履歴書は速達で北海道に送ったとのことだが、それ以上私たちに何ができるだろうか。静江は昼食を出して祈ってあげた。ところが、その夜、山ノ内牧場から電話がかかってきた。牧場主の奥さんが彼の履歴書を読みながらいろいろ聞いてくる。結局、I君はどういう人物かと聞かれるが、私も答えようがない。私から彼に連絡はできないから、彼が教会に来たらまた連絡すると約束して電話を切った。30分近い長電話であった。そして彼が来るのを心待ちにしたがそれきり何の連絡もない。土曜日の朝になって、念のため牧場に電話を入れてみた。例の奥さんが出て、I君はこちらに来ているという。驚いた。どうして北海道まで行くことが出来たか、これがまた驚きで、またまた長電話になった。それは次週に記したい。(続)

 

I君のこと 2 

I君が北海道の東の果て、山ノ内牧場まで辿り着いたことを記した。それはこういうことである。仕事も無いし金もない。彼が最後に行きつくところは教会であった。以前にもそのように助けられたのであろうか。多分、電話帳で川口の教会をいくつか調べて訪ねたのであろう。三浦清重先生の聖泉キリスト教会にも来たそうだ。ついに東川口まで歩いて行き、改革派の東川口教会(桜井良一牧師)へ行った。桜井牧師も二人の小さな子どもを抱えて楽な生活ではない。ところが、そこに協力宣教師のヤング師が来ておられた。師はI君の話を聞いて深く同情し、何とか彼に立ち直って欲しいと願い、山ノ内牧場と連絡をとって、釧路までの飛行機代三万円を貸してあげようと申し出てくれた。さすがは宣教師である。ヤング宣教師に会えたことが神の憐みであったと私たちは思うが、彼もそう思える日が来る事を祈りたい。

山ノ内牧場は釧路空港から車で1時間はかかるという。奥さんが車を頼んで空港まで迎えに行くから、この飛行機で来るようにという便はすでに満員であった。結局、朝一番の便で羽田を発ったが、五時起きしてヤング宣教師は彼を羽田まで送ってくれた。チケットだけ渡しても飛行機に乗らないかもしれないことを心配してである。搭乗十分前には再度牧場に電話を入れて迎えをよろしくと頼んだ。宣教師でもここまでやってくれる人が何人いるだろう。

釧路は雨であった。約束の場所で奥さんと落ち合い、牧場に行ったら店などはないから、ここで必要なものは買っていこうと、下着等の必需品を奥さんが買ってくれたそうである。奥さんがそこまでしてくれたのも、一つは娘さんが標茶の教会に通っているクリスチャンだからだろう。奥さんはクリスチャンではないが、教会や牧師には信頼を寄せている。北海道人は人が良いといっても、この奥さんのような人は少ない。彼がヤング師や奥さんたちの信頼を裏切らないようにぜひ祈っていただきたい。

(2001.10.21)

 

 

 

 

 

 

 

 

                  

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